ベトナム北部サパ:ホテル乱立で失われた風情

 

 ベトナムの観光地で人気を二分するのが、ベトナム中部にある世界遺産の街ホイアン(Hoi Anと、中国との国境にほど近いベトナム北西部にあるサパ(Sa Pa)である。

 

 

 サパへのアクセスは、主にハノイから列車やバスに揺られ、中国雲南省との国境の町であるLao Caiまで、6-8時間ほどかけて移動し、そこからさらにミニバンやバスで40キロばかり離れたサパへと、ワイディング・ロードを標高1600メートルのサパへ向け上昇していく。

 

 サパに近づくにつれ、その曲がりくねった道は、車上の人々の胃袋を締め上げるのを楽しむかのごとく、右へ左へと向きを変える。運転手にもよるが、運悪く運転の荒いドライバーに当たると、車に酔いやすい人にはやや辛い道なので、事前の心構えが必要だ。

 

 さて、サパに到着すると、ベトナムの都市部ではほとんど見られなかった、少数民族の特色のある衣服に身を包んだ女性たちを眼にするようになる。また、日中の日差しは強く激しいものの、朝晩の空気は低地のベトナムの地域よりもずっと涼しく過ごしやすい。冬場には気温が氷点下まで下がることもある。ベトナムで唯一、雪が降ることもある場所である。

 

 多くの宿の窓からは、「インドシナの頂」と呼ばれるシーパンドン(3143m)の山々の景色が美しく見られる。朝には霧や雲が山裾まで迫ってくることがよくあり、標高1600メートルにあるサパの町も霧に包まれることが多い。

  

 山の天気は若い娘さんたちの気分のごとく変わりやすく、数分ごとにうつり変わる美しい空模様と景色を楽しむこともできる。東の方にある山々の背後から陽が昇ってくる頃には、様々な顔を持ったサパを写真に収めることができる。

 

 サパでの宿の選択肢は、バック・パッカー向けの安宿から一泊200ドルを超える高級ホテルまで様々だ。主流はゲストハウスや安めのホテルなのであるが、そこら中で新しい建築物の工事を行っているので、しばらくすると中級・高級リゾート地と化して、やや敷居が高くなるかもしれない。

 

 あるいはベトナムにありがちなホテル客室の過剰供給により、料金が常に低く抑えられるのだろうか。お隣の中国やタイ王国のそれを見てみると、やはり過剰供給でもいずれは料金が上がっていくのであろう。ベトナムが高くなってしまうと、何も魅力がなくなってしまうかもしれないが。

 

 

 さて、サパの中心部に造られたサンプラザ・グループのホテルからは、シーパンドンへと向かう6キロ以上もの長さのケーブル・カー、ケーブル・カーへと向かう高架列車が運行されている。外国人料金は70万ベトナム・ドンと、現地の人々には目の飛び出るような強気の料金設定になっている。

 

 かつては1日がかりのハイキング、トレッキングで訪れる場所であったシーパンドンの頂が、この高低差世界最大のケーブル・カーが運行されたことにより、なんと12分で結ばれるようになったという。そんなに急いで山の頂まで行くのが、果たして旅情があるのかどうか、疑問が残るところではある。

 

 ベトナムの観光化は、中部のホイアンのように、往々にして、元々の風情を全く顧みない観光公害を引き起こす方法であることが多いが、このSa Paの開発を見ていると、それを痛烈に感じさせられることになる。

 サパの町にあるギャラリーに立ち寄った時のこと。絵描きである旦那さん、店を切り盛りする奥さんのオーナー夫妻と少し話す機会があった。「かつてのサパと比べて、今のサパはどう?」と質問を投げかけると、「もう私たちが子供の頃にあったサパの風情は、全くなくなってしまったよ」と遠い目をし、呟くように答えてくれた。

 

 

 個人的に想うのは、「巨大なホテル」と「サパに無くても良い中途半端なショッピング・モール」、「高架列車とケーブル・カー」を運営するサンプラザ・グループの「サンプラザ」の開発によって、サパの風情にトドメが刺されたと感じる。

 

 広場の対岸にぽつねんと建つ、サパのキリスト教教会が寂しそうに見える。周囲にみるみる巨大なホテル群がオープンし、小さな教会の存在感が低下しつつある。絵本『小さな家』を想起させるのは、気のせいだろうか。

 

 

ホテルの乱立がすぎるのが、玉に瑕。

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