『ウォールデン 森の生活』 ヘンリーDソロー

 

 今日、「真面目に毎日よく働き、富をできるだけ大きく築くことをよし」とする風潮が世間にはびこっている。それは本書が書かれた200年近く前の、まだ産声をあげて間もないアメリカにおいても同様であったようだ。

 

 

 しかし、その「真面目に働き大きな富を築く」という価値観だけでは、すべての人々の人生に幸福をもたらさないことがすでに判明している。それどころか、この価値基準で計ると、「落伍者」となる人が「幸せな働き者」よりも多くなり、多くの人が「不幸せな人生を送る」ことになってしまうのだ。特に、日本のような長期衰退社会においては。

 

 

 

 

 小学館から出版されているこの訳版は、他の訳と比べると好評なようだ。値段が3000円以上するが、ページの上部に脚注やヘンリー・デビッド・ソローの描いた絵がついているので、流れを阻害せずに時代背景や各項目の「知っておくと良い」説明がすぐに読める。

 

 

 人の一生とは、誰か他の誰でもない「その人にとってのかけがえのないもの」であり、幸せを感じつつ、生を全うするのが「よい人生」であり、多くの人がそう感じながら生きられるのが、「よい社会」であるはずだ。

 

 

 いわゆるグローバル大手企業のビジネス・エリートとして生きることに、心と体がフィットする人は「その道」を突き進めばよいが、世の中の多くの人はそうではない。

 

 無理して自分の体に合わない服を毎日着るように、そう共感できもしない所属する会社のスローガンを無理やり飲み込み、満員電車にゆられて通勤し、時間を切り売りしていると日々感じている。或いは自分で車を運転していても、混んだ道を思うように進まない車の列に紛れ込んで時間を浪費している感覚が常につきまとう。目的地では終業時間を今か今かと一日に何度も時計を見て過ごす。そんな「サイズの合わない人さまの靴を履いて暮らす」生活を続けるから、心と体を壊す人が続出するのである。

 

 

 そもそも自然界にはまだ豊かな自然が残されている。自分が食べていく分の糧を得るには、人は少しの農作業と社会への少しの付加価値を生み出せば、あとの時間は「動物として」ゆっくりと自然の中に生かされている幸福を享受しながら暮らせる「はず」なのである。

 

 それを無理して、「大して共感できもしない会社の仕事で個性を殺し、いくらか金持ちになって不要に大きな家や贅沢な家具を買い、また高い車を買い換えることが人生の成功だ」と考えるようになると、現実とのギャップに多くの人が苦しむことになる。実際に全てを揃えた人の多くにも、「自分は一体何のためにこんな生活を欲していたのだろう」と感じるのが通常の感覚の持ち主であるが、他人の考えに同化してきた時間が長い人ほど、それにすら気づけないほどに感度が磨耗している場合もある。

 

 

 

 本書の日本語訳は相当に骨の折れる作業であったことだろう。ソローの文章は彼の生きた時代と彼の意図するものを汲み取るのに、言外の様々な事柄の知識と理解を要するからだ。訳者がそれまでのいくつかの訳本に満足できず、ついには自分で翻訳をしたという経緯にもあるように、この訳本も実は幾らかの問題を含んではいる。その点では、読者はこの日本語訳の本を「取っ掛かり」として、いずれは英語の原文のテキストに手を伸ばすことになるのであろう。

 

 しかし、この日本語版を読まず、いきなりオリジナルに当たるのは、多くの日本語を母国語とする人には難しい。まずは相当な作業と手間を割いたと思われる日本語訳で全体像を掴んでから、ソローの奥深い思索の旅の片鱗に感化されてから、その水脈の源流である英文へと逆に辿っていくのが、ソローの本を読む際に有効なステップなのではないか。

 

 

 

 繰り返すが、この日本語訳もさらなる改訳が望まれる箇所が多い。しかし、この翻訳でも手にできるというのは、英語の理解を得意としない人々にとっては福音である。

 

 「生き方」の一つのオプションとして、若いうちに一度は試してみてもよいのが、この「森の生活」なのかもしれない。独り身であれば実践はそう難しくはない。恋人や家族がいる状況だと、難易度がぐっと高くなるであろうから。

 

 また、多くの小屋暮らしを実践しブログを書いている人々は、性生活をどうしているのかについては殆ど触れていない。きっと、この辺が難しいところなのだろう。

 

 

 

 さて、これは「お得情報」の部類に入るにが、実は英語版のこの本は、アマゾンのKindleだと無料で読める。しかし、無料だからと欲張って、いきなりこの英語版のオリジナル・テキストを 読もうとするよりも、大方の日本人はまず有料でも日本語版でその概要と流れを知っておいた方が賢明だ。英語版でいきなり躓いて、ずっと「読まない本」となる失敗が少ないだろうから。

 

- Advertisement -

 

 自分はまず上にあげた日本語版を手にとった。1日に40~50頁ぐらいずつ、途中で中だるみもしつつ、味わうようにして2週間ほどかけて読み終えた。

(そう、この本は435頁と厚い上に、自分にとっては、一気に読んでしまうと「消化不良に陥る」と思える内容であった。それほどに、物の見方や考え方の転換を示唆する本なのである。また行間からソローの人柄を感じようとも努めた。それができたかどうかは分からないのだけれど。)

 

 それから英語版をKindleにダウンロードして読んだ。この2ステップを経ることで、自分はすんなりと英語版も味わうことができた。

 

 

 

自分の人生を生きよう