ベトナム人と魔法の原付バイク

 

 ベトナム人にとって、「小型の原付バイク」とはなんであろうか。それは通勤通学の足であり、デートの相棒であり、仮眠を取るベッドであり、人力では到底運べないものを運ぶ手助けをしてくれる魔法の乗り物である。雨天でも雨合羽さえ羽織ればサブマリーンと化す。

 

首都ハノイでも原付バイクは交通の主役。これが車に置きかわると、バンコクのように大渋滞となろう。
首都ハノイでも原付バイクは交通の主役。これが車に置きかわると、バンコクのように大渋滞となろう。

 

 先進国の多くの人は、「原付バイクの定員は2名である」と考えるが、ベトナム人からすると、「それは少なすぎる」ということになる。ベトナム人にとって、1人か2人乗りの原付バイクは資源と資本の無駄であり、3人4人で乗っている原付バイクは「そこそこの乗車率」であり、5人以上乗っている原付バイクを見ると、「まぁ、やるね」となる。日本で3人以上の人が原付バイクに乗っていたら、雑技団の練習かと思われるが、ベトナムでは「近所の普通の光景」である。

 

ベトナムでは、一台の原付バイクで家族全員で移動することは、珍しいことでもなんでもない
ベトナムでは、一台の原付バイクで家族全員で移動することは、珍しいことでもなんでもない

 

 ハノイの旧市街にある聖ジョセフ大聖堂の前のカフェにて、あのベトナムの街角によくある小さなプラスチック椅子に腰掛け、コーヒーを啜って現地の空気に同化するのを楽しんでいた時のこと。そこに、「相当やる」原付ライダーが眼の前を横切っていった。彼はよくある110CCクラスの小さな原付バイクにまたがり、20メートルはあろうかと思われる鉄道のレールを運んでいたのである。一人で。

 

 

 「鉄道のレールを原付バイクで運ぶ」という発想も凄いが、ハノイの喧騒の激しい街中を、20メートルものレールを提げて小さな原付バイクで走り抜けるのも至難の技だろう。

 

 これまでに、ベトナムでは数頭の大きな豚を運ぶ原付バイク、原付バイクを運ぶ原付バイク、大量の鶏やアヒルを運ぶ原付バイク、大きな看板を持った人を後ろに乗せて走る原付バイク、大量の野菜や花を運ぶ原付バイクなどを眼にしてきたが、「ベトナム人と原付バイク」を組み合わせると、なにか魔法のような結果が生まれるようである。きっと、「原付バイクの女神」に祝福された民族なのであろう。そんな女神がいるのかどうか知らないが。

 

 

 ハノイやサイゴン(ホーチミン)の街を、多くの原付バイクの群と一緒に走るのは楽しい。うまく波に乗っていると、まるで大海の中の小魚の群の中の一匹になったような快感を覚える。その感覚は、自分がベトナムとつかの間一帯になっているのだ、と感じることのできる至福の時間だ。

 

 

 「ベトナム人に3台の原付バイクを渡せば、3階建ての家を運べる」とは、ベトナム戦争時のアメリカ兵の格言だ。

 

 

 

 

 嘘。そんなこと誰も言っていない。しかし、それぐらいやってのけてしまうのではないかと思われるほど、ベトナム人の原付バイクの利用は、クリエイティブである。

 

 

- Advertisement - 広告

魔法の原付バイクでも、事故る時は事故る。