鳥の串焼きサンバ隊が跋扈する、ラオス低地の路線バス。

 

 「ガイ・ヤーン」という鳥の串焼き料理をご存知だろうか?

タイ王国のイサーン(東北地方)やタイ王国の裏山であるラオスでは、メジャーな食べ物だ。細かくされた鶏肉が串に刺さっており、鳥の原型が分からない日本の焼き鳥とは違って、ガイ・ヤーンは元の鳥の状態に近い大ぶりな鶏肉を串に刺して、あるいは挟んで焼いている、豪快な「串焼き鳥」である。

 鶏肉が串に刺された(挟まれた)状態のまま売られているものもあれば、串を外して食べやすいサイズに細長く切られたものもある。どちらにせよ、それは日本の焼き鳥とは比べようもなく巨大だ。

 

 多くの場合、現地の人々はカオニウ(もち米)と一緒にこれを食べる。本場のカオニウの食べ方は、箸やスプーンを使わず、素手で丸めて口にする。大抵の場合、手も洗わずに。(シンガポール以外の東南アジアの人々の衛生観念は希薄だ。)

 

 さて、話が少し逸れるようだが、ラオスは700万人だかの人口を抱えている。そのラオスの人々は、大雑把な括りでは、暮らしている土地の高度によって、「高地ラオス人」「中地ラオス人」「低地ラオス人」と三つに区分される。随分と曖昧な区分ではある。なにせ「暮らしている場所の高度によって区分する」というのは、彼らが移動してしまったら元も子もないからだ。そして、財産の乏しい者であればあるほど、簡単に住処を移動できる。

 

 そんな「高度によって人種を三つに分けるラオス」であるが、比較的「低地」の多いラオス南部地方を走る路線バスには、低地ラオスの旅の名物とも言える「鳥の串焼きのサンバ隊が押し寄せる光景」が今日でも見られる。

 

 

 どういうことかというと、集落のある場所に路線バスが止まるやいなや、各種物売りがバスの中に流れ込み、まるでリオのカーニバルのサンバ隊のごとく、車内の空気を賑やかにするのである。

 

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 実際には、「鳥の串焼き(ガイ・ヤーン)」だけを売っているわけではなく、卵の串焼きやカットした果物なども売っているのだが、眼にも楽しく匂いも強烈なのは、やはりガイ・ヤーンであろう。物売りのサンバ隊が流れ込んでくると、車内が一気に「鳥の串焼き」の匂いに包まれるからだ。こうした光景は、「低地ラオス」においてよく見られる。

 

 山の起伏が激しく、車酔いする人が続出する「中地ラオス」や「高地ラオス」ではあまり見られない。普段、あまりに文明と離れた生活をしている中地や高地のラオス人には、車酔いする人も多いので、食べ物どころの騒ぎではないのかもしれない。

 このガイ・ヤーンを筆頭としたサンバ隊、初めて遭遇した時には、「おやまあ、なんて楽しげな物売りなのだろう」と胸躍らせる者もあるのだが、集落の度に同じような物売りがどっと車内に押し寄せるので、次第に「またかよ。もういいよ。」という気分になってくるのが、タイ王国の裏山の産業の乏しいラオスらしいところである。

 

 また、サンバ隊には節度というものがない。座席が満席でさらに通路にまで乗客がいるような車内であっても、客を押しのけ問答無用にカーニバルを繰り広げる。

 

 ちなみに、同じく「ガイ・ヤーン」のあるタイ王国では、こうした光景は見られない。路線バスにも中進国の余裕が感じられる。「串焼きなんぞのために停車している時間があったら、少しでも先に行くべきだ。」というのがタイ王国の空気だ。休憩の少ないバスが飛ばしすぎて事故ることも少なくないが。

 さて、多くの場合、外国人はこうした光景を面白がっているだけで物売りから買う者はほとんどいないが、現地ラオスの人々は意外にもサンバ隊が売るモノを購入している人が少なくない。彼らにとっては日常の慣れ親しんだ食べ物であるので、手を伸ばすことにさほど抵抗がないのであろう。こうしたラオス人乗客の需要がある限り、低地ラオスの「鳥の串焼きサンバ隊の跋扈する光景」は、まだしばらく見られそうだ。

ガイ・ヤーン! ガイ・ヤーン!