ベトナム人ドライバーを近隣諸国で働かせたくない理由

 

 「ベトナムのローカル・バスの過酷さについて」は、以前にも書いた。

 

 今回は、そんな「ベトナム人のクレイジーなドライバーたちを近隣諸国では働かせたくない」という話をしよう。

 

 一度でもベトナムに行ったことのある人であれば、ベトナム人の交通法規を無視した滅茶苦茶な車やバイクの運転を眼にしたことがあるはずだ。先日、ラオス南部のサバンナケットからベトナムのラオバオへと抜けるバスに乗った時のこと。このバスはほとんどラオスの領地を走る路線バスなのであるが、ドライバーや関係者はベトナム人であった。

 バスの外観は普通の古いバス。エアコンが効かないので窓が全開なのを除けば、韓国で使われていたバスが定年を迎え、ラオスに運ばれてきたという、よくある「再利用バス」であった。途上国では、日本からも本国では古くて使われなくなったバスや電車の車輌が送られ、第二の仕事場として働いているケースを眼にする。

 バスがサバンナケットの町を出発する際に、後部座席の殆どと通路がほぼ荷物で満杯なのを除けば、いたって普通の空調の効かない路線バスに過ぎなかった。出発時には5人しか乗客もおらず、「これは割と快適に目的地までつけるのではないかな」と予想した。しかし、まだこの時には、「バスのドライバーがベトナム人である」ということを知らなかったのである。

 

  サバンナケットの町を少し走って、すぐにバスは停車する。更なる荷物の積み込みだ。バスの後ろ半分は荷物で埋まっていたのだが、通路の半分より手前はまだ空きがあった。今回の積み込みは20ケースばかりのエナジー・ドリンク。瞬く間に積み込みは終わったが、すでにバスの通路の前方まで積荷は迫っている。

 

 「やれやれ、これでは下車する時に、どうやってドリンクの箱を踏まずに降りられるのやら」と思っていたが、それは常識的な日本人の考えであると思い知らされた。ドライバーも荷役の男も、皆このエナジー・ドリンクの箱の上を平気で歩いていくのである。「自分たちの仕事は頼まれた荷物を運ぶ運搬業であり、その荷物を「きれいに運んでくれ」とまでは頼まれていない」といった具合だ。

 

 また少しすると、「鳥の串焼きを持ったサンバ隊」が乗り込んでくる。お約束のラオス流エンターテイメントだ。

 バスはさらにラオスを東西に抜ける道を走る。少しして雨が窓の外を叩くようになった。窓を占めていないと雨が座席を濡らすので、近くの窓を閉めていく。雨が本降りになって少しすると、またバスが停車した。運転手がなにやら通りの向かいにいる男と話している。どうやらまた荷物を積み込む気でいるらしい。通りの向こうから小型のトラックが一台やって来て、バスの横の荷台辺りに付けた。小型のトラックの荷台には、二人のベトナム帽を被った男と、30頭ばかりの山羊が載っていた。

 ベトナム人の男二人は、言うことを聞かない山羊たちを鷲掴みにして、バスの荷台に無理矢理に放り込んでいく。まるで地獄の門を潜りたくない人々を棍棒でひっぱたいている鬼たちのように見える。「もう少し優しくしてあげてもいいのに」と側から見ていて山羊たちが不憫になるが、ベトナム帽の男たちは憐憫の情など微塵も持ち合わせていないかのようだ。

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 そうこうしている間に、バスの乗客の足元の荷台に30頭ばかりの山羊が全て積み終わった。足元の荷台と乗客の座席の間には隙間があるのか、停車しているバスの中は濡れた山羊が放つ動物臭さが充満してくる。前列に座っていたタイに留学しているという青年に、「あれ、ラオス人?ベトナム人?」と尋ねると、「ベトナム人」と笑いながら教えてくれた。やはり。

 山羊を乗客の足元の荷台に満載し、乗客の乗る空間の殆どを運搬業の荷物が満載した路線バスは、また悪路を走り始める。雨の中、座席の下の荷台から時折、山羊が「ベエエエエエエエ」と辛そうに鳴き声をあげる。凸凹なラオスの道を疾走するバスの荷台の中は、いかに同胞の山羊とはいえ、折り重なるようにして荷台に詰め込まれている状況を想像すると、アウシュビッツに列車で運ばれるユダヤ人の捕虜たちが足元にいるような錯覚を覚える。山羊の鳴き声は次第に悲壮さを増し、「べエエエエエエエエエ」から「ベバァアアアアアアアアア」と山羊語を解さない自分にも辛さが分かるトーンに変わっていく。

 さらに、辛そうな山羊の鳴き声の合間に、荷台から「コケケケケケケ」と鶏の鳴き声も聞こえてくる。どうやら始発のサバンナケットの停留所から、すでに足元の荷台には生きた鶏が数羽積まれていたらしい。自分の足元では、濡れた30頭の山羊たちと鶏たちが暗い荷台の中でもみくちゃになっている。