世界遺産マラッカの雰囲気を台無しにするリクシャー軍団

 

 「マレーシアの古都、世界遺産の街マラッカ」について書いています。

 

 

 世界遺産の街マラッカには、「Dont Mess with Melaka(マラッカをダメにするな)」と政策標語があるのは前回書いた。今回と次回は、「マラッカを台無しにしている典型例」をご紹介しよう。まずは、ソフトな方から。

 

 

 

 ここ数年、マラッカの街で、外観がやたらと賑やかなリクシャーが目につくようになった。リクシャーとは乗客を乗せて走る人力三輪車の事であるが、このリクシャーの「デコレーション・リクシャー(以下デコ・リク)」化が進んでいるのである。

 マラッカの街を旅する際の玄関口となるオランダ広場には、昼夜問わず、多くのデコ・リクが客を待ち受けている。かつては大人しい外観のどこにでもあるリクシャーであったのであるが、何かの拍子でマラッカのデコ・リクは他国のそれとは異なる進化を遂げた。

 

 その進化とは、外観の「アニメ化」「夜間走行用の電飾設置」と、付帯サービスの「音響装備」である。

 言うまでもなく、リクシャーの基本性能とは、「目的地まで乗客を乗せて走る事」であるが、走行性能を向上させるのとは裏腹に、マラッカのリクシャーは無駄に外観をデコレーションし車体を重くし、走行性能を落としてまでも、「デコ・リク」化する道を選んだ。

 

 デコ・リクには、アメリカの映画キャラクター、ディズニー社のキャラクター、サンリオ社のキャラクター、日本の有名アニメ・キャラクターなどが、おそらく無許可で「デコレーション素材」として使われている。中には世界観の全く異なる他社のキャラクター同士が一緒に用いられている例もある。

 

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 夜の帳が降りる頃、せっかくのデコレーション仕様の車体が見えなくなるのを嫌い、デコ・リクは電飾で存在をアピールし始める。その電飾の煌びやかさは、マラッカの高層ホテルのルーフ・トップ・バーで酒杯を傾けているフロアから、数百メートル、場合によっては1キロ以上も彼方にデコ・リクの輝きが確認できるほどである。

 

 夜のマラッカの街には、『ポケモンGO』のモンスターを集める熱心なプレイヤー達の徘徊の脇で、デコ・リクが電飾を煌めかせて客を引こうとしている、およそ「世界遺産の街マラッカ」には似つかわない光景がある。

 

 

 多くの観光客は好奇の眼でデコ・リクの写真を撮った後に、その場を立ち去る。ところが、中にはモノ好きな観光客がいて、このデコ・リクに乗って移動するのであるが、付帯サービスの「音響」からはけたたましい音楽が流されることになる。

 

 リクシャーの運転手になぜ音響設備があるのかを聞いてみると、「客が飽きちゃうからね」という回答。しかし、旅先として訪れたマラッカの街の情緒を楽しみたい客は、古都マラッカの風景に酔いしれることはあっても、そう簡単に「飽きる」ことはないだろう。むしろ、飽きているのは「いつも同じ光景を見ているリクシャーの運転手」であり、彼らのための「景気付けの音楽」であることは明らかである。

 日本のデコレーションされた大型トラックを「デコ・トラ」と呼ぶが、マラッカのデコ・リクにも、彼らと共通のメンタリティを感じる。

 

 日本のデコ・トラの場合、運転手が自腹で数百万円、場合によっては家が買えるほどの改造費用を負担しているケースも珍しくない。世界に一つのオリジナルのトラックにしたい、という飽くなき「熱いデコ・トラ魂」が、採算や周囲の白い視線を顧みずにデコレーションに走らせるのは、どこかデコ・リクにも通じるものがある。

 

 異なるのは、デコ・トラが高速道という比較的無害なルートを走るのに対して、デコ・リクは「世界遺産の街マラッカ」を主な仕事場とし、その古き良き街の空気を台無しにしているということであろうか。

 

 

 

デコ・リク、ぱっと見は面白いけれど