写真家の石川直樹さんによる「旅という冒険の手段」に関する本。
読者対象層が中学生以上という本なので、 漢字の多くにルビがふってあるのが、大人には逆に読みづらい印象を与えるが、読み進めている内に気にならなくなるから不思議だ。
文体は『全ての装備を知恵に置き換えること』の方が読み物としての完成度は高いが、10代の読者も想定しての文章なのでこれは仕方がない。装丁も親切だなと感じていたら、祖父江慎さんだった。
石川直樹さんを最初に知ったのは、「写真家・石川直樹」としてだった。しかし、本書を読んでからは、「旅の作家から写真にも領域を広げた石川直樹さん」という認識に変わった。
北極から南極まで、ほぼ人力によるプリミティブな手段で地球の半径を旅する「Pole to Pole」、世界7大陸の最高峰全てに登頂した旅人、この本を読むと、石川直樹さんは実に早熟な人であったことが分かる。
久々に写真家で作家の藤原新也さんの『メメント・モリ』を目にし、手に取ってみると、2008年11月5日に大幅に改編された新版であった。旧版を初めて手にしたのは十数年前になるだろうか。ガンジス川かどこかの川辺らしき場所で、人間の屍体が野良犬に喰われつつあり、その写真に
「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」
という言葉が付いていて衝撃を受けた本である。新版でも同じ写真と言葉は残されていた。
毎年、多くのビジネス書が市場に出回るが、その大部分が人に知られることもなく世の中から消えていく。そうした本は消えうる運命を背負った「おまとめサイト的な内容」のものが殆どで、著者が「自分の頭と経験から考えたこと」でないものがほとんどだ。全くビジネスの経験のない人々には、「ビジネスの全体を俯瞰するための良い勉強」になりうるかもしれないが、30代40代ともなってくると、本を手にする時間と労力、そして幾ばくかの金の無駄でしかない。
これまでに数百冊はビジネスに関連する書籍を読んできた。手にする前に「この本は読む価値があるだろうか」と斜め読みしたモノを含めると、数千冊は渉猟してきたとも言える。その中で、近年、圧倒的な存在感を放っていたビジネス書といえば、『イシューからはじめよ』である。
世界71人の著名な絵描きたちが、(元)ピクサーの堤大介さんとジェラルド・ゲルレ氏の呼びかけで、「途上国に図書館を作るためのチャリティー」のために、手渡しで「世界を旅するスケッチ・ブックの絵」を描いて貰った集大成がこれ。
ここ数年、画家・絵本作家のヒグチユウコさんが注目されている。その活躍は日本ばかりではなく、GUCCIとのコラボレーションなどで世界に及んでいる。最初はGUCCIのチルドレン・ライン向けのイラストレーションで協働し、ついにアダルト向けのラインもまず日本限定で販売されている。
日本人は欧米のブランドが好きな人が多いので、「グッチとコラボしているヒグチユウコさん」と聞くと、もうそれだけで大変な人なのだという格付けになる。確かに大変な才能をもつ画家なのではあるが。
『東京百景』(又吉直樹)についての感想を書いた。時期を同じくして読んだ『火花』と『夜を乗り越える』に関しても、備忘録として書いておこう。
まず、300万部のベスト・セラーとなった『火花』。この本の存在はずっと知っていたし、書店で見かけることも何度もあった。香港の九龍公園の向かいにある、日本語の古本を扱う小さな書店ですら、『火花』を見かけた。
又吉さんの小説としての二作目の『劇場』が出たことで、『火花』のブームが下火になったと感じ、やっとその『火花』を手に取ってみようという気になった。
2015年以降、一躍時の作家となった、お笑い芸人であり作家でもある又吉直樹さん。彼の作品である『東京百景』『夜を乗りこえる』、そして300万部というベスト・セラーとなった『火花』を遅ればせながら読んだ。
現在、巷で話題となっている『劇場』は、まだ手に取っていない。東京の100の心象風景を集めた『東京百景』を最初に読み、続けて『夜を乗り越える』『火花』と読んでみた。「この人は(日本文学という範疇の中では)本物だ」とよく分かったので、いずれ『劇場』や他のエッセイ集なども読むことになるだろう。
近年、デザイン界や広告界の人々の仕事術や思考法が注目を集めることがしばしばある。サムライの佐藤可士和さんやタグ・ボートの岡康道さんが代表例であろう。多くの「面白くわかりやすい」イラストレーションの仕事で人気を博している寄藤(よりふじ)文平さんの本で、気になる本があったので手にとってみた。彼の『大人たばこ養成講座』などは、タバコを全く吸わない自分でも買ってしまった本だ。
『危機とサバイバル(Survivre aux crises)』 ジャック・アタリ
21世紀を生き抜くための<7つの原則>
世界の変化の激しさに翻弄されている人が多い。かくいう自分も「なんて変化の早い時代に生まれたことだろう」と驚くことしきりだ。そこには多くのチャンスも潜んでいるが、大きな危険も孕んでいる。危険をチャンスに変えるためのヒントを説く書籍は多い。この本もそうした本の一端を担う。本書は、ヨーロッパ最高の知性の一人と謳われるジャック・アタリの2014年日本刊の書籍。
花村萬月さんによる旅にまつわる新書。
主に彼のオートバイ遍歴、野宿遍歴、そして旅した各地の軽い考察がごちゃ混ぜになった内容である。
新書とする際に書き下ろしたものと、別の媒体に書いた旅に関するエッセイを混ぜ合わせて一つに本にする際に、編集者は整合性をとることなくそのまま収録したのであろうか。終盤では、「どうした要素があると作家になれるか」など、「旅」とはそもそも関係のない話まで出てくる始末であり、これでは酔っ払いの戯言とそう変わらないのではないか、とさえ思えるような節もある。
しかし、彼の書き綴った「旅」への考え方の部分部分には「旅の真理」がみて取れる。これからオートバイで中長距離の旅をする人や野宿を考えている人の参考に、いくばくかはなるだろう。
ムーミンの作者であるトーベ・ヤンソンの小説に、『軽い手荷物の旅』という作品がある。
10数年前に読んだきりで、肝心のその物語の内容は忘れてしまったのであるが、タイトルだけはずっと心に残っている。ひょっとすると原題はこれとは違うものなのかもしれないが、この『軽い手荷物の旅』という書名が、ずっと心の隅の方に残っているのだ。それだけ自分にとっては響くコピーなのであろう。