バンコクで私がよく行く書店と、その書店一押しの作家

 

 タイ王国の首都バンコクに滞在している時に、気がつくと夜間の蛍光灯の周りに屯する夜光虫のように吸い寄せられている書店がある。高級ショッピング・モールであるパラゴンに店を構えるKINOKUNIYAがそれである。日本と比べてもずっと高いパラゴンで服飾品の買い物をすることはまずないが、食事や書店、映画館にはよく足を運ぶ。

 

 「KINOKUNIYA」は言うまでもなく、日本の「紀伊国屋」書店の海外出店版である。タイ、マレーシア、シンガポールなどでKINOKUNIYAに足を運んできた経験から言うと、バンコクのパラゴンに入っているKINOKUNIYAが、私にとっては一番居心地が良い。特に英書のコレクションが充実している。

 同じバンコクのサイアム・プラトゥナム地区には、セントラル・ワールドのISETANの上階に同じくKINOKUNIYAが居を構え、少し離れたスクンビットにももう一店舗ある。しかし、それらはパラゴンのそれよりも随分と小規模で、ISETANの方は日本語の書籍が半分、英語とタイ語が残りの半分ずつ、スクンビットの方は英語が半分、その他日本語・タイ語で半分という書籍言語の比重である。

 パラゴンのKINOKUNIYAはというと、ざっくりとした感覚値ではあるが、約55%が英語の書籍、約40%がタイ語の書籍、そして残りの5%ほどを中国語の書籍が占める。ひょっとすると、もっと英語系の本が多いかもしれない。タイ王立のトップ・スクールであるチュラロンコーン大学にも近いこともあり、賢く育ちの良さそうなチュラの学生や、名門高校の学生たちが学校の帰りなどにこの書店やパラゴンで時間を潰しているのをよく目にする。

 

 

 書店の東側の窓からは、「立地の割に行く人の少ないお寺」が上部から見渡せ、その先にはセントラル・ワールドの背の高い建物が見える。モノレール路線であるBTSがサイアムの街の中空をおもちゃのように走って行く様も見ていて楽しい。

 

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 さて、私がKINOKUNIYAに行く際の「お目当」は、英語の書籍であることが多い。ここではアート系の書籍や歴史書、マネジメント系の本や各種雑誌、英訳された各国の漫画、世界的に名の知られた作家の装丁の凝った全集などが割とリーズナブルな価格で売られている。500バーツかそこらで年間会員になっていると、全ての書籍が1割引きで購入できるという特典もある。

 

 英語、タイ語、中国語が扱う書籍のほぼ全量を占めるKINOKUNIYA

であるが、「書店一押しの作家は誰か」というと、実は英語、タイ語、中国語を母国語とする作家ではなく、日本の「HARUKI MURAKAMI」なのではないかと思う。

 

 というのも、英訳された日本語の小説作品の棚のスペースは三つか四つと多くはないのだが、そのうちの一つの棚を「HARUKI MUARAKAMI」がほぼ独占しているのである。これは英語・タイ語・中国語を母国語とするどの作家と比べても、棚の占有率が高いと言えるのではないだろうか。それほどに、バンコクはパラゴンに店を構えるKINOKUNIYAの一押しは、「HARUKI MURAKAMI」なのである。日本語だと「村上春樹」だ。

 

 東野圭吾など日本で村上春樹よりも売れているという作家はいるが、世界市場においては、やはり「HARUKI MURAKAMI」がダントツで知名度と日本人作家市場の占有率が高い。

 

 20172月末に刊行された『騎士団長殺し』では、かつての自身の小説の道具立てをほぼそのまま使って、深く研ぎ澄まされた新たな小説世界を書いてのけた村上春樹。「昔の作品の模倣だ」という批判を受けることを承知の上で、さらに作品世界の精緻さを増すことに注力し、大きな批判を巻き起こす「自己模倣」をやってのけた、大胆不敵で老練な作家である。

 

 タイのバンコクで待ち合わせをする際には、私はこのKINOKUNIYAをよく使っている。いつの日か、貴方とバンコクでお目にかかるその日にも、KINOKUNIYAを待ち合わせ場所にするかもしれない。BACCにも近いですしね。

 

 それにしても、一棚はすごいな。