香港の富豪である李嘉誠によって建立された、比較的新しい寺が、大陸の深圳にほど近い香港北部の新界の山中にある。その名を「慈山寺(ツーシャンスー)」という。
寺の参拝には、事前のオンライン予約が必要であるが、参拝は基本的に無料である。予約には香港の携帯電話番号が必要なので、香港の番号を持っていない人は、香港の友人の番号を借りることで予約できる。

実際に、「予約制だと知らなかった」と慈山寺を直接訪れ、あっさりと門前払いを食らっているフィリピン人や大陸人のグループを眼にした。必ず予約はしていった方が良いだろう。
自家用車での訪問は禁止されている慈山寺。電車やバスを乗り継ぎ、やっとこさ到着したのに、山中にある境内を見ることができず、香港市内に引き返すのは、やりきれないであろうから。

香港メトロの「大埔墟」駅から、バスに乗って寺のある山の麓の最寄りの停留所で下車し、さらに徒歩10分から15分ほど、なだらかな坂道を登っていく。
香港の街中しか知らない人々からすると、ここは別世界だろう。道中には、なぜか事故を起こした車などが展示されていたりもする。ゆるやかな坂道を神聖な領域へと一歩一歩近付いていく儀式を経て、よくデザインされた寺門が姿を表す。
予約時間になるまで、原則としては境内への入場はさせてもらえない。寺の外にはトイレもないので、事前に済ませておくことが必要だ。
寺門のすぐ眼の前、脇道をそれた所に、海の見える丘に張り付くようにして墓地がある。見晴らしが良く中国古来の雰囲気と様式美を持つ墓地は、墓地歩きの好きな自分のような人間には、思わぬ発見であった。
身内の墓はここにはないので、見ず知らずの香港人や大陸からやってきた人々がここには眠っている。それでも、この墓地へと先祖の墓参りに訪れる人々のまとう「氣」は、異邦人をも受け入れるものであった。
墓地を歩いてみると、いくつか様式の異なるお墓があり目にも楽しい。家族や祀られている人の名前を石碑にちゃんと彫ってあるお墓もあれば、お墓にダイレクトに手書きで書きなぐっているものもあり、各家庭の事情や雰囲気も垣間見られるのが面白い。
次回、慈山寺の中を覗いてみよう。

お墓を訪れると、落ち着く。
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