インドは書店もIncredibleであった

 

  タイ王国はツーリズム(旅行業)に力を入れており、「Amazing Thailand(驚くべきタイランド)」という標語をどこかで目にしたことがある人も多いだろう。

 

 近年、インドも同様にツーリズムをテコ入れしようとしており、旅行者の耳目を引くための標語を打ち出している。タイ王国の旅の標語のパロディのような、「Incredible India(信じられないインド)」がそれだ。

 

 確かに、インドでは、他の国ではお眼にかからないような信じられない場面に直面することがある。

 

 そして、それは多くの場合、自然界の「信じられない光景」ではなく、インド人の思考回路に起因する「え?!信じられないインド(人)」であることが多いようだ。

  インドの公用語はヒンドゥー語であるが、イギリスの植民地時代が長かったせいもあり、学のある人々や上流階級の人々の間では、英語も公用語である。(インド人の英語は独特なイントネーションであるが、日本人のそれも人様のことは言えない。)

 

 街中の大きな書店に行けば、英語の書物が山のように積まれている。インドの物価、インド人の所得を考えてか、諸外国で出版されている英語の出版物も、インドでは同一の書が安く売られていることが多い。

 ニュー・デリーのとあるホテルに入っている書店で、何冊か本を買った時の話。

 『指輪物語』で有名なイギリスの文豪トールキンの本を何冊か、そしてマーケティングの世界的な権威であるフィリップ・コトラー『Marketing 3.0』、さらに世界最古の性の教科書と呼ばれる『カーマ・スートラ』に関する本を何冊か買い求めた。トールキンの絵本や『カーマ・スートラ』はすぐにパラパラと目を通したのだが、簡単に内容をおさえている気になっていた『Marketing 3.0』に関しては、いわゆる「積ん読く」となっていた。

 

 

 ある日、しっかり『Marketing 3.0』を読んでおこうと思い立ち、書棚からそれを引っ張り出してみた。

 

 

 ページをめくると、そこには直接的にマーケティングとは関係のない話が前文にあった。「ほう、さすがコトラーだ。本の作りが斬新だな。マーケティングの本なのに、マーケティングの話がなかなか出てこないではないか。しかもコトラーじゃない人が前文を書いているようだ。」最初はそのように考えた。

 

 

 しかし、読めど進めど、マーケティングの話にならない。というよりも、マクドナルドの話ばかりだ。しかもコトラーの本であるはずなのに、ページをめくっても、どこにもコトラーの文章が出てこない。いくら世界的なマーケティングの権威とはいえ、Marketing 3.0と全く関係ない話を長々とするのは、斬新すぎるだろう。そう思い、今一度、書籍のタイトルを確認してみた。

 

 

 なんと、違う書籍であった。

 

 

 

 本を購入した時に、中身を確認してなかったのがいけなかった。「インドでは、本のカバーと中身の本が違うことがある」ということを想定していなかったのだ。安さにつられて、勇み足で何冊も本を購入していたあまり、まるっきり確認を怠っていたのだ。いくらマーケィングの権化であるコトラーといえども、ずっとマクドナルドの話をし続け、Marketing 3.0に関して語った、ということにはならない。そりゃそうだ。

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 それにしても、カバーと中身が見事にフィットしていた。「カバーと別の書籍が中身に入っているかもしれない」とは全く予想していなかった。さすが「信じられないインド(人)」である。

 

 

 しかし、なんでまたマーケティングの本とマクドナルドの本とが入れ替わってしまったのだろうか。考えられる可能性は幾つかある。

 

 1:書店の店員か書籍の流通の段階の作業員が、書籍に別のカバーを間違えてかぶせてしまった。

 

 2:本を購入しようとした人が、書籍の差額などで、安く手に入れようとしたのか、中身をすり替えた。

 

 3:誰かがうっかり本を落とした際に、何冊かの本のカバーが偶然はずれてしまい、慌ててカバーと本とをセットしなおした際に、似たような厚みの本だったのですり替わってしまった。

  

 4:インドなので、私の考えのまったく及ばない超常現象が起きた。

 

 

 どちらにせよ、私の書棚には、いまもMarketing 3.0のカバーの中に、「マクドナルドの人材マネジメント」に関する本がこっそりと眠っている。

 

 

 かつて、インドの郵便事情の酷い話を聞いたことがある。とある男性が荷物を日本からインドに送った。箱はボロボロになったものの、荷物はなんとか男性の元に到着した。箱を開けてみてびっくり。荷物のうちの半分ぐらいが、自分の送った物でないものに入れ代わっていたのであった。中にはなぜかブラジャーまで入っている。男性は独身だ。女装の趣味もない。「信じられないインド(人)」である。

 

 

 他人の身に起きると面白い話であるが、いざ自分の身に起きてみると、ちっとも笑えない話だ。「信じられないインド(人)」を時間差で感じさせられた、『Marketing 3.0』事件簿であった。

 

こちらが本当の『Marketing 3.0

 

 

 

インドよ、どうかお手柔らかに。