「自ウランバートル至モスクワ」の6266キロの列車旅へ

 

 夏になり、地平線の見えない都市部にいると、ふと想い出すかつての旅がある。モンゴルの首都ウランバートルから、ロシアの首都モスクワまでの6266キロ、約100時間の鉄道の旅だ。

 

 運行予定表ではウランバートルをでた列車は、96時間後にモスクワのプラットホームに滑り込む予定であるのだが、45日の中央アジアの鉄道の旅で数時間の遅れは、「誤差」の範囲であろう。

 

 これが日本の鉄道であれば、「お急ぎのところ電車が遅れて申し訳ありません」とそう心のこもっていない慇懃なアナウンスが頻繁にあり、「4時間も遅延した」とニュースになりそうなものであるが、モンゴルやロシアではそうそう驚かれるような話ではない。なにせ元々の予定時間が96時間というのもある。

 ウランバートルからモスクワまでの寝台列車には、幾つかの等級があるようだが、なるべくなら「一番良いベッド」か「二番目に快適なもの」のチケットを押さえておいた方が良いだろう。45日も列車の上の人なのだ、ここで旅費を節約するために「硬いベッド」や「座席のみ」などにしてしまうと、100時間もの長丁場をしのぐのが至難の技になるばかりか、最終目的地のモスクワに着いた時に疲労困憊しており、すぐに活動ができなくなるからだ。

 私がこの旅でとったチケットは、モンゴル鉄道の車掌の女性たちが乗り合わせている列車で、寝台列車の中は鍵の閉まるしっかりした扉のコンパートメントで区切られ、上下二段のソフト・ベッドが向かい合わせに並ぶものの一つであった。

 

 シベリア鉄道の中でも、モンゴル人車掌の乗り合わせた列車が、最も料金が安いらしい。ロシア鉄道や中国鉄道だと、人件費もモンゴル人の車掌より高いのだろう。その割に、サービス・レベルはモンゴル人車掌の女性たちの方が、ロシア人や中国人車掌よりも温かみがあり、快適である場合が多い。

 北にロシア・南に中国という巨大な国に挟まれたモンゴル。その首都であるウランバートルの要の駅であるウランバートル駅は、隣国の首都の駅とは比べるべくもない小さな駅舎だ。

 

 ここに発着する列車も1日に数本だけであり、列車の停留していない時間帯は、入場の自由なホームの上を散歩するおじさん・おばさんが長いこと椅子に腰掛けていたりと、いたって暇そうな駅だ。モンゴルの中央駅の割に、駅前はまださほど発展していない。中国の主要駅のように、駅やプラットホームに入るのに何層ものセキュリティ・チェックを超える必要はなく、自由にフラフラと誰でも入れる気持ちの良い場所である。

 ウランバートル駅に向かって左手に、チケット・カウンターの入るビルがある。ここでチケット売りのおばさんが、「モスクワ?ならこれにしておきな」と勧めてくれたクラスのものを迷わず予約した。

 

 モスクワまでの45日、6266キロの長丁場の旅であるが、寝台コンパートメントの二階ベッドで料金は1万円代半ばであった。さらに二つばかり、もっと安いチケットもあったが、「長旅だったらこれに乗っておいたほうが良いよ」というオススメのものをそのまま受け入れた。

 ロシアとモンゴルとをつなぐ国際列車は、今も昔も鉄道の旅を愛する人々や、安く旅費をあげたい旅人に人気のある列車である。またこのモンゴル鉄道の列車は本数が週に23本と限られている。列車のある曜日とない曜日とが幾つも歯の抜けた櫛のようにある上に、夏場の旅行シーズンともなると学生の利用も増えるので、当日・前日ではチケットが手に入らないこともままある。これがロシアのモスクワから中国の北京までの国際列車となると、さらに事前の予約が必要となるようだ。

 ウランバートルの街は、この国の半分の人口約150万人の人々が暮らす中規模都市であるが、街中には目立った見ものも少ない。

 

 ウランバートルで最も栄えたエリアは、駅から北東側に行った国会のある広場の周囲であるが、少し離れるとかなり閑散とした区画となる。駅の北西の寺のあるエリアには、都会の中にも懐かしいゲルのある住宅もあり、遊牧民の伝統文化が感じられる。

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