インド観光庁が打ち出している「インド観光の標語」は、タイ王国のそれである「Amazing Thailand(驚くべきタイ王国)」をもじったような、「Incredible India(信じられないインド)」というものである。
タイ王国を訪れても、「驚くべき(Amazing)」面は、経済発展と共に随分と影を潜めているが、一方でインドの「信じられない(Incredible)」面は、まだまだ健在であり、年間8万人もの子供が迷子や人攫いによる誘拐などで行方不明になっているという。8万人!
本作は、迷子で家に帰れなくなったインド人の少年がメイン・キャラクターである。迷子の後の孤独な生活を経て、孤児院に連れて行かれた少年は、オーストラリアはタスマニアに暮らすアングロサクソン(白人)夫婦に養子として引き取られる。
その後20年以上経ってから、かなり頼りないおぼろげな幼い頃の記憶をたどりつつ、すっかり青年となった主人公は、グーグル・アースの衛星写真を辿って自分の故郷を探し出し、実際にインドの実家と残った家族との再会を描く「実話」である。まさに、「信じられないインド」である。
主人公のインド出身の青年の名前は、Saroo(サルー)。年上の兄Guttu(グトゥー)を慕い、母親一人で子供三人を支える家計を助けるために石炭を盗んで売ったり、といった貧しい家の子供。まだ幼い妹と「石の運搬人」を仕事としている母のために役に立とうと、兄が何をするのか不明な「夜の仕事」に出る際に無理を言って付いていく。そこから悲劇が始まる。
まだ幼いサルーは、兄グトゥーの言う夜の仕事の時間にどうしても瞼が重くなり、兄の足手まといとなるのに時間はかからない。「もう起きていられないよ」というサルーを心配しながらも、仕事のために「駅でまっているんだよ」と言い残し駅から離れる兄。サルーはうたた寝の後、無人の駅のプラットホームのベンチで目覚めてみると、兄の言いつけを暗闇が怖くなって聞けず、兄を探そうとしてしまう。そのうちにまた、停車していた列車の中で兄を探すうちにまた居眠りをしてしまう。
そして、その列車が動き出し、なんと1600キロ離れたカルカッタまで途中乗客をのせず、停車しない列車であったことから、悲劇の連鎖と養子縁組までの物語が始まる。
ここまでは予告編で観られる内容。
これ以上書くとネタバレになるので、慣例の25点評価をしておこう。
Visual: 5
Performance: 4
Screenplay: 5
Sound & Music: 4
Originality: 5

合計25点満点で23点!
少年サルー、兄のグトゥー役の子役たちの演技は申し分なく5点であるのだが、「成長したサルー」を演じる二枚目俳優と、「実物のインド人青年」との容姿のギャップがあるので減点一点とした。タスマニアで暮らす「白人の母」をニコール・キッドマンというとびきりの美人が演じているが、「実際のお母さん」はもっと「オージーらしい、ぽっちゃりなさった方」である。この辺は映画なので仕方がない事情はあるが、そのギャップに「あれ?」となる人も多そうだ。
音楽も心象風景を描くのにとても適した効果的なサウンドであるが、観終わった翌日になると、どんな音楽であったのか憶えていないので一点減点した。映画を観てから一ヶ月以上経った今では、もうほとんど音楽を憶えていない。しかし、映画館の暗闇の中で座席に身を沈め映画を鑑賞している時には、「これは音楽も素晴らしいな」と感じられた。
映像は最初から最後まで美しい。インドの荒野や都市の喧騒、タスマニアの美しい自然、ドローンで空撮したであろう多くの鳥瞰風景、グーグル・アースの画像の効果的な挿入。
それでも、気になるインド。また行こう。
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