カオ・マンガイ、タイ王国のほぼ全土で食べられる庶民的な鶏ご飯料理の名だ。
本来は中国の「海南鶏飯(はいなん じーふぁん)」と呼ばれる料理であったチキン・ライスが、華僑のタイ王国への渡来と共に伝わったと考えられる。
元々の海南鶏飯は、別々に盛り付けられた蒸し鶏とご飯とを一緒に食べるスタイルの料理であった。東南アジアへ伝わるにつれ、ご飯の上に鶏肉が載るようになり、ベトナムではおかずがフライド・チキンのものが増えたり、マレーシアのマラッカではご飯をボール状にしたりといった具合に、少しずつ変化して各地に根付いている。
バンコクのカオ・マンガイの有名店の一つ、プラトゥナム(水門)地区にある「ゴーアン」は、ピンクのシャツを着た10人前後の店員たちと、店の前に行列ができるほどの多くの客で連日賑わっている。店員がピンクのスタッフ・シャツを着ているので、別名「ピンクのカオ・マンガイ」とも呼ばれている。カオ・マンガイがピンクなのではなく、お店の看板とスタッフ・シャツがピンクなのである。
メニューを見ると、創立1960年とのことであるから、60年近く営業してきた食堂であり、移り変わりの早いタイ王国の飲食業界においては、「老舗」と言えるだろう。
ここの看板料理は、なんといってもカオ・マンガイ、蒸し鶏の載ったライスであるが、他にもメニューには幾つかの料理が名を連ねる。
ゴーアンは日本の渋谷にも支店をオープンするなど、日本人にも人気のお店である。渋谷店は「ゴーアン・シブヤ」と呼ぶのであろうか。タイでは40バーツ(約130円)で食べられるこのカオ・マンガイも、日本では最低でも数百円はするのであろうか。頻繁に中国やタイ王国に行くようになり、日本で中華やタイ料理を食べに行くことがめっきりなくなった。
肝心の味の方であるが、ごくたまに食べるには良い。ご飯も鶏の脂で炊き込んであるので、美味いのだがかなり脂っこい上に太りやすい。頻繁に食べると飽きてしまう味なので、適度に「ごくたまに食べる」というサイクルを自分で加減した方が良いだろう。
かつてはメニューらしいメニューは無かったのだが、日本に支店を出したくらいから登場した立派なメニューには、店主と思しき風格の男性と、主要スタッフが収まっている写真が掲載されている。
よく見ると、写真のスタッフの中に二人レディー・ボーイがおり、一人トム・ボーイがいる。「間違い探し」の要領で、カオ・マンガイが運ばれてくるまでこの写真を覗き込むのも、バンコクらしい余興である。しかし、あまり盛り上がってもいけない。たまに本人たちが食堂で働いているので、注意が必要だ。

タイ王国ではレディー・ボーイやトム・ボーイが食堂スタッフにいても、じろじろと見るような野暮なことをしてはいけない。「退屈な舞台に、彩りを添えている役者たちなのだ」と老練な舞台監督のような気分で、「自然にそこにあるもの」として受け入れる心が必要だ。
「たまに」だと、そこそこ美味。
一つ前の記事へ:「変わりゆくカオサンと、変わらないもの」
そのほかの「タイ王国の記事」へ