意外というほどのことでもないが、タイ王国の首都バンコク(曼谷)には、「本当に古い遺産などの見どころ」が少ない。
イタリアのローマを筆頭に、ヨーロッパ諸国の首都には、街中に2000年前後から数百年の遺跡がゴロゴロとあるが、タイ王国においては、そうした場所は稀有である。
首都として既に三百年かそこらの歴史はあるバンコクだが、多くの建物は、古いものでも数十年以下の比較的日の浅い歴史しか有しておらず、一見古そうに見えても、実の所、かなり真新しい建物ばかりの街なのである。
タイ王国の歴史自体が、スコータイ王朝の八百年ほど前からのものなので、そもそもイタリアなどとは比べようもないのだけれど、それにしても「本当に古いもの」は少ない。
百年かそこらの築年数の建造物でも、三百年の都バンコクにおいては「かなり古い遺跡」というレベルの場所となる。そういう意味では、チャオプラヤー川沿いの華僑の夢の跡である「廊1919(英語表記:Lhong 1919)」もそれに当たるのだろう。

バンコクにおいて、華僑が多く住んでいた(いる)場所として有名なのが、今もチャイナタウン(通称:ヤワラート)として活気のあるヤワラート通りの周辺であるが、「廊1919」はチャオプラヤー川を挟んでヤワラートの向かいのクロンサン地区に位置する。
この辺りは、数年前にタイ王国随一の巨大高級ショッピング・モールである「アイコン・サイアム」がオープンし、一躍脚光を浴びる場所となったが、それ以前は多くの人にとって、良く言えば「下町情緒を残す場所」であり、もっと率直に言ってしまうと「あまり行く機会のない場所」であった。


数年前、ヤワラートの隅にある家族経営の宿屋の女将と話をしていた折、「バンコクで歴史のある穴場スポットってどこかある?」と尋ねてみたところ、「あなたは既にバンコクのほとんどの場所に行っちゃったからねぇ。あ、でも廊1919は行ったことある?あそこは華僑の文化が垣間見られるわよ」との情報を貰い、コロナ禍が始まる前年に、初めて訪れてみたのであった。
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華人の夢の跡を訪ねて
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