タイ王国の象

 

 タイ王国では、象は神聖な動物として扱われてきた。特に体の何割以上が白い「白象」は、通称「象法」の規定で、国王に寄進する義務があるという。先代のタイ王国の国王、プミポン国王は7頭もの白象を所有していたという。

 

 しかし、時の国王も寄進される象を無償で接収するわけではなく、多額の褒賞と名誉を象の所有者であったものに与えるというから、白象の所有者となった者からすれば、「金の卵」のようなものだ。

 スリン県というカンボジアとの国境にあるタイ東北地方の県がある。かつて、この地に住むスリンという名の人物が、国王に白象を寄進した事から、彼の名を県名につけるほどの大変な名誉を与えたといわれる。

 

 今日でも、スリン県は象の多い地域、象の保護・飼育センターを保有する地として有名である。スリン県の街中では、道端で象と飼い主が歩いている姿もよく目にする。

 

 

 以前、バンコクからツーリングで近隣を走り周った際に、スリン県で休憩がてらマッサージ屋に立ち寄った時のこと。マッサージを終えて店を出ようとしたところ、店の前に停めておいたバイクの後方に、ちょうど象使いを乗せた大きな象が歩いているところであった。こうした素敵なサプライズのイベントがあると、旅の女神に祝福されているような気分になる。

 首都バンコクの沿道では、今日では象を見る事はなくなった。かつては道端で食事などをしていると、象使いに連れられた象が目の前を横切っていくということもよくあった。しかし、車と象の接触事故などが後を絶たず、象を守るために、現在はバンコク市内で象を連れて歩く事は禁止されている。バンコク市内の道路沿いで、軽食を食べている横を象が横切っていくという幻想的な体験は、すでに美しい過去の話になった。

 バンコクの人々の顔から笑顔が消え始めたのも、この頃からのような気がする。かつてのバンコクは、もっと微笑みの溢れた街であったのに。象たちの精霊と共に、バンコクの人々の笑顔まで去ってしまったかのようだ。

 さて、タイ王国の地形は、右側を向いた象の顔に似ている。メジャーなタイ・ビールの銘柄の一つは、「ビア・チャーン(象麦酒)」である。観光地にて商業目的に飼育された象にまたがって喜ぶ観光客たち。象のメンタル・ケアまでする保養施設がある一方、金儲けに目がくらみ、過酷な環境で強制的に象を使役に従事させる人々も多いという。

 

 またいつの日か、タイ王国の象たちが、のびのびと暮らせる時代がくるのであろうか。

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 蛇足であるが、タイ語のスラングで「チャン・ノイ(小さな象)」といえば、男性のアレを指す。そういった意味でも、象はタイ王国の人々にとって身近な存在だ。

 

小象はめっぽう可愛い