味覚で「ベトナムに着いた」と実感する時

 

 前回、「中国広西省南寧からベトナム・ハノイへの寝台夜行列車」の移動について少し書きました。今回はその続きです。

 

 

 ベトナムを訪れる際、「ああ、ベトナムに戻ってきた」と感じる瞬間は、人それぞれ違うのだろう。ある人は「陸路でベトナムへと国境を超えた時」、ある人は「ベトナムの空港に降り立った時」、またある人は「ベトナムならではの、何かしらの習慣化した行為をした時」に感じるのかもしれない。気の早い人はベトナムへのフライトを控えた空港の待合ターミナルで、周りのベトナム人の振る舞いを見て、「もうすでにここはベトナムだ」と感じるのかもしれない。

 

 以前、寝台夜行列車で中国広西省からハノイへと旅をした。ベトナムへの越境後、ベトナムの領地に敷かれたベトナム鉄道の鉄路の上を走りながらも、まだ中国鉄道の車両の中で寝ていたので、意識としては、まだなんとなく中国の延長線上であった。

 

 さて、中国から越境してくる当該列車は、ハノイの中心にある「ハノイ駅」ではなく、街の北東の「ギア・ラム駅」に到着する。「ギア・ラム駅」に早朝に到着すると、俄かにベトナムらしい光景が目に飛び込んでくる。朝早くからここそこで営業している移動式の食堂、まだ車よりも多いバイクの群れ、そうした光景の中を歩くうち、意識がベトナムにゆっくりと切り替わっていく。ここからハノイの旧市街にはタクシーやバスで移動することになる。

 

 ハノイの中心部、旧市街(オールド・クォーター)に着く頃には、周囲は当然に思い切りベトナムの街の光景なのであるが、まだなんとなく、意識の切り替えがうまくいかない。中国にいるのだか、ベトナムにいるのだか、当然ベトナムではあるのだけれど。

 

 寝台夜行列車でハノイに早朝に到着すると、宿のチェック・インの時間にはまだ早すぎる。荷物を宿に預け、朝食へと出かける。旧市街の雑踏の中にある小さな路面店で、道に面した小さなプラスチックに腰掛け、ベトナムでお馴染みの「フォー・ガー(鶏肉麺)」にライムを搾り、ちゅるちゅると啜る。柔らかく温かい麺と優しい味の乳白色の汁が喉を降りていく。この瞬間、パッと「ああ、ベトナムに戻ってきたなァ」という気分になった。

 近くの席では、ベトナム人の若い男が、小さなプラスチックに腰掛け、同じようにフォー・ガーを啜っている。すぐ側の通りでは、歩道で食事をする我々などお構いなしに、ハノイ中心部の入り組んだ道を猛スピードでバイクや車が駆け抜けていく。ベトナムでは公共バスまで猛スピードで駆け抜ける。フォー・ガーの優しい味で、お馴染みのベトナムの光景が、しっくりと受け入れられるスイッチが入った。

 

 仮に「全く同じ味とクオリティのフォー・ガー」を日本や諸外国で食べたとしても、当然「ああ、ベトナムに戻って来たなァ」とは感じないだろう。ベトナムの環境の刺激とベトナム料理の味覚が一つになった時に、初めてその感覚が味わえるのだろうから。

 

 会計を済ます際、ふと狭いお店の天井の方を見上げると、仏壇だか神棚があり、そこに他界したと思われる家族の写真が掲げられていた。このすぐ道に面した場所から「店舗 兼 住居」な感じも、実にベトナムらしくて良い。

 

 

また来ます。

 

 

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