フエの街を眺望するルーフ・トップ・バーの想い出

 

 前回の「ベトナムのフエで、アオザイを撮影。」からの続きです。

 

 疾風のごとくベトナムの古都フエを去って行った「ハノイ女子三人組」。彼女たちの去った後のフエの夜風には、どこか心を締め付ける余韻が漂っていた。

 

 しかし、さすがは「アメージング・ベトナム」である。にわかに友となった人々との「惜別の余韻」を一気に冷ますイベントには事欠かない。

 

 歩いて宿へと戻る道すがら、米系の某D社などの「似非キャラクター」が古都フエの街の空気を和ませてくれていた。やれやれ。

 

 さらに宿へと近づくと、とある古い宿のフロントにアオザイを着た子がいた。安い既製服なのでややダブダブ感はあるが、それでも一応はアオザイである。先ほどまでフエの街を代表する鉄橋で友人たちの「アオザイ撮影」をしていた自分としては、なんだかホロリとする衣装であった。

 

 

 「アオザイ、よく似合うね」と褒めると、「ありがとう」と嬉しそうに満面の笑み。フエの街には珍しく、英語がかなり使える彼女は、すぐ近くの大学で観光学と英語を専攻する学生さんであった。名前は仮にAちゃんとしておこう。

 

 「どこか夜景の綺麗な場所を知らない?」と尋ねると、「近くに夜景の綺麗な場所があるよ」とのこと。「まだ街の地理に詳しくないんだ」と言えば、「じゃあ、もうすぐ仕事が終わるから、仕事が終わったら連れて行ってあげるよ」と当意即妙の答え。

 

 Aちゃんの仕事が終わる頃を見計らい、彼女の働く宿へと向かう。「すぐ近くだけど、バイクで行こう。私もそのまま帰れるし。」ということで、目的地の場所が分からない自分は、アオザイ姿のAちゃんの後ろに乗せてもらう。その辺で客引きをしているバイク・タクシーのおっさんたちの後ろに座るより、ずっと快適であった。

 

 彼女が連れて行ってくれたのは、フエの最高級ホテルの裏側に立つ高層ホテルのルーフ・トップ・バー。確かにここで働く店員と顔見知りのようであった。店にはほとんど客もおらず、古都フエの王宮前を流れるフォン川を眺めながら、静かに語り合うのには適した場所であった。

 

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 Aちゃんから教えてもらったところによると、フォン川は「香る川」という意味で、かつては良い匂いがしたのだという言い伝えがある。有名な「香港」も、かつては香木の匂いがたちこめる港であったことから、港で働く労働者たちの間で「香港」と呼ばれていたのだと聞いたことがある。どちらも「香しい匂い」はもうしなくなっているけれど、こういう逸話は在りし日への郷愁をかきたてる。

 

 

 さて、Aちゃんは大学卒業後、ツアー・ガイドの仕事がしたいのだと言っていた。フエ出身の彼女は、「最も遠出をしたのはダナンであり、首都ハノイや大都会ホーチミンはおろか、フエからバスで2-3時間で行けるラオスにも行ったことがない」と言っていた。そもそも、「パスポートを持っていない」とのことであった。

 

 翌日、「綺麗な夜景スポット」に連れて行ってくれたお礼に、映画を一緒に観に行ったのであるが、なんと「映画館で映画を観るのも初めて」という事であった。ベトナムの田舎町の学生さんは純朴な子が多いが、ツアー・ガイドを目指しているような子でも、「ほとんど外の世界を知らない」という事情があるのである。 

 

 

 あれから数年経った今では、彼女の望みが叶い、Aちゃんは大都会ホーチミンでツアー・ガイドとして働きながら、ベトナム人の恋人と仲良くやっているようだ。

 

 いつの日か、彼女が結婚し、子供を持った後でも、アオザイの似合う「香しいフエの女性」であってくれたらと想う。

 

 

君と好きな人が、100年続きますように。